独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「本家で花嫁修業もなさっていないんですって? 最初から瑛さんはあなたを仮の相手としか見てなかったんでしょうね」



強気な態度を崩さぬまま、日菜子さんが畳みかけてくる。



「梁瀬本家に嫁ぐ女性は、結婚式までに本家に住み込んで花嫁修業をするのが代々のしきたりなのに、省略だなんて前代未聞。家族にとけこむための大事な儀式すら不必要な花嫁なんて、最早伴侶と言えるのかしら?」



クスリと声を漏らし、意地悪な視線を向けてくる。



「きっと瑛さんは、里帆さんがお戻りになると思ってらっしゃったのね。あなたはその場しのぎの花嫁、代理なだけなのに勘違いするなんて身の程知らずね」



怒り、ショック、悲しみ、あきらめ……様々な感情が渦巻く。

皮肉にも日菜子さんの発言によって、瑛さんが私を本当の意味で好きじゃないと改めて知らされる。

儀式の件も然り、所詮私はその程度の存在だったのだ。

瑛さんにとって必要なのは“朝霞さんが戻るまでの花嫁”と“赤ちゃん”だけ。



……これから、どうすればいいのだろう?



離婚はしないと言っていたが、もう時間の問題だ。

でも赤ちゃんとだけは引き離されたくない。

好きな人との間に授かった愛しい存在を手離すなんて考えられない。

自然と視線が下を向く。



「あなたは噂になった男性と仲良くなさるのがお似合いですわ」



延々と勝手な話を続ける日菜子さんの声が遠くに聞こえる。

外はうだるような暑さのはずなのに、指先は冷えて、背中を冷たい汗が流れ落ちる。

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