独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
朝霞さんの愛車の助手席に乗せてもらう。

やはり瑛さんから私の妊娠について聞いたらしい。

ごく僅かな、親しく信頼できる人にしか話していない件を伝えている時点で、瑛さんにとって特別な存在だと暗に示された気がした。

ヒリヒリと痛む胸を無視するように、深呼吸を繰り返した。

シートベルトはつらくないかと気遣われる。

恋敵を優しく労わる女性に敵うはずもないと改めて思い知らされた。

車の中で最初に口火を切ったのは朝霞さんだった。



「まったくあの女、もっと文句を言ってやりたかったわ……!」



「え……」



憤懣やるかたない、砕けた口調が意外で面喰う。



「あの親子は、昔から人の粗探しばっかりして、自分たちが偉いと勘違いしてるの。そんなだから、梁瀬の人間はしきたりやくだらないプライドに雁字搦めになるのよ」



「はあ……」



「不愉快な思いをさせてごめんなさいね。梁瀬の親族のひとりとして、お詫びするわ。今後は、あのよくわからない会に参加しないほうがいいわ。今日の出席を瑛がよく許したわね」



物静かでおしとやかなイメージを抱いていた私は、戸惑いを隠せない。



「ああ、勝手に親しげな口調で話しちゃって、ごめんなさい。瑛の奥さんだと思うとつい気が緩んじゃって。こんな場所でなんだけど、朝霞里帆です。よろしくお願いします」



突然の自己紹介にさらに戸惑う。

どういう態度で接するのが正解なんだろう。



「新保、彩萌です。よろしくお願いいたします」



迷いながら旧姓を告げると、朝霞さんがほんの少し目を見開く。
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