独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「瑛のご両親はね、息子に重責を負わせたくないと思ってらっしゃったの。ご自身がしきたりや分家のしがらみで苦労されたから。瑛のお母様が遠縁の分家出身なのはご存知?」



「いえ、知らないです」



「ご当主が瑛のお母様にひと目惚れして、瑛のお母様もご当主に惹かれて、結婚されたの。でも分家の人たちにずいぶん嫌がらせをされたの」



「なぜですか?」



「自分たちより格下の分家出身で、家業を手伝われていたからよ。女性が働くなんてもってのほかだって……最低よね。結婚後は、外出ひとつ満足にできずに大変だったらしいわ。ふたりで築くはずの新生活を、しきたりで雁字搦めにされてしまったそうよ」



いつも私を朗らかに温かく迎えてくださるお義母様の過去に、驚く。

同時に梁瀬のご両親が私の外出や行い、仕事に口出しや反対をされない理由がわかった気がした。



「先代のご当主夫妻も庇いきれない場合は多かったみたいで、つらい思いをされたそうよ。だから瑛のお母様は、結婚がなにかをあきらめるものになってはいけないって、よくおっしゃっていた。これからはそんな時代じゃないわって」



「すごいですね……」



「ご自身が苦労されたからでしょうね。瑛のしきたり嫌いはそこからきているのよ」



見下され、“しきたり”を盾に外出もままならず、好きな仕事もできず、まるで監視されているような毎日を送ってきた母親を見て育ったから、と朝霞さんは付け加えて目を伏せた。

瑛さんが、しきたりを守っていく意味がわからなくなるのも当然だ。
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