独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「元々私たちは契約結婚だったんです。届くはずのない想いを受け入れてもらえて……夢のようでした。けれどそれは、お腹の赤ちゃんに責任を感じていたからだって本当はずっとわかっていたんです」



「契約結婚って……なんでそんな真似を……ごめんなさい。私のせいよね」



「いいえ、いいんです。母を助けてもらえてよかったと思っています」



自嘲気味に話す私の手を、朝霞さんがギュッと握りしめた。



「さっきも話したけれど、瑛は政略結婚を嫌がっているの。契約結婚も然りよ。なのに敢えてそんな言い方をしたのなら、理由があるはずよ。出会ったときの話は聞いた?」



「私の自宅に瑛さんが来られたときのことですか?」



質問に質問で返すと、朝霞さんが目を丸くする。



「なんで肝心なところを端折っているのよ……」



「朝霞さん?」



「幼馴染を庇うつもりはないんだけど……私たちは幼い頃から周囲に弱みや隙を見せないようにして生きてきたの。私は分家の人間で、跡継ぎでもなかったからまだ気楽だったんだけど、瑛はお母様の件もあって常に気を張っていたと思う」



突如切り替わった話に戸惑う。



「家族や親しい人にしか本心を見せなくてね。それも成長するにつれて、全然話さなくなったわ。きっと口にするのが苦手で、怖いのもあるんだと思う。だから瑛は基本無表情だし、人に弱音も吐かないの……ううん、吐けないのよ」



ふと瑛さんの面差しが浮かんだ。

最初の頃こそ無表情で仏頂面だったが、少しずつ笑うようになってくれた。
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