独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「ひとつ、内緒話があるの。この間実家に帰ったとき、母に聞いたのよ。私との婚約破棄を正式に決める場で、瑛が初めて我がままを言ったんですって」



「我がまま、ですか?」



「どんなときも冷静で合理的な方法を的確に見定めて選択してきた瑛が、そのときは一切の損得勘定を見せなかったそうよ」



朝霞さんの言わんとしている内容がよくわからず、眉根を寄せる。



「瑛に、どんな我がままだったのかを聞いてみて。花嫁修業の件も全部、この際洗いざらい尋ねたらいいわ。好きに怒って泣けばいいのよ。我慢する必要はないわ」



名家のご令嬢らしくない物言いに呆気にとられる。



「……どうして朝霞さんはこんなに親切にしてくださるんですか?」



ふと湧き上がった疑問を口にする。



「ずっと我慢し続けてきた不器用な幼馴染に幸せになってほしいから、それだけよ。自分だけの大切なものを見つけた瑛が、少し羨ましくもあるのだけど」



フフと口角を上げた朝霞さんは見惚れるほどに綺麗だった。

やはりこんな女性になりたいと憧れる。



「そういえば……気分はどう?」



「大丈夫です。すみません、本当にありがとうございました」

 

「よかったわ。じゃあそろそろ自宅に送ってもいいかしら?」



はい、と小声で返事をすると、朝霞さんのスマートフォンが着信を知らせた。

しばらく鳴り響いて音が止む。



「あの、どうぞ出て下さい」



「ありがとう。ちょっと待っていてもらっていい?」



そう言って、朝霞さんは車から降りて話し出した。

険しい表情を時折浮かべている様子からして、なにかトラブルだろうかと考える。


一方で、帰宅したら瑛さんにどうやって話そうかと悩む。

出張先から直帰するのだろうか。

疲れているかもしれないが、今日きちんと話したい。
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