独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
10.唯一の我がまま~Side瑛~
『――最近奥様が本家に足繁く通われているそうですが、花嫁修業ですか?』



取引先を訪れた帰りに時芝夫人に偶然出会い、声をかけられた。

しきたりを無視したのを、どこからか聞きつけたのだろう。

情報収集能力の高さに恐れ入る。

しかもご丁寧に、妻の動向まで教えてくれるとは。



『花嫁修業は必要ありません』



『まあ、それは深くお付き合いする方ではないという意味かしら? そういえば先日も男性と密会されていたと世間を騒がせておられましたけれど……末端の分家の方はこれだから困りますわ』



『――急いでおりますので失礼します』



いちいち相手にするのも腹立たしく、一方的に話を切り上げた。

彩萌に対して敵対心を露わにするような人間に、本心をさらすつもりはない。



なぜあの日、母を待たずに一貴とふたりきりになった? 



本家になんで通う必要がある? 



どうして俺に教えない?



心の奥底から湧き上がる疑問に答えが出ないうえ、たまたま仕事で訪問したホテルで見かけた光景を思い出して、イラ立つ。



――ダメだ、彩萌が絡むと途端に冷静さを失ってしまう。

彼女だけがこんな風に俺の心を簡単にかき乱す。

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