独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
隙あらば足元をすくおうとする人間ばかりの中で育ってきたせいで、俺は本心を悟られないよう日頃から心がけている。

自分の感情を告げる行為自体が苦手でもある。

特に里帆との婚約破棄の詳細を話せていない現状では、彩萌に詮索されてもうまく返答できない。

そもそも彩萌を陥れるような真似をした件を、今さらどうやって説明できるのか。

カッコ悪いし、情けない……なにより嫌われたくない。

そんな葛藤からつい語調がきつくなり、突き放すような言い方をした。

里帆を庇うつもりは毛頭ないが、狭量な俺は自分の立場を卑怯にも正当化しようとした。


そんな中、離婚という馬鹿げた記事を目にして、頭に血が上った。

目の前が真っ赤に染まり、冷静さを失っていた。

落ち着いて読めば、なんの確証もない愚かな記事だと一蹴できた。

読み流すか、元凶を突き止め、厳重な処分を言い渡すことだって可能だった。


だが、このときの俺にそんな余裕はなかった。

元々講師が一貴なのは少々ひっかかっていたが、彩萌が梁瀬家について学んでくれるのは喜ばしく、少しでも彼女の憂いや心の負担が減るならばと渋々了承したレッスンだった。

長い付き合いの、ましてや婚約を考える相手がいる一貴を疑うつもりはない。

ただあのとき偶然目にした光景に息が止まりそうだった。
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