独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
『ちょうど今日、恩師に挨拶に行こうと思って向かっているの。彩萌さんが来ていたか確認して連絡するわ』



「……頼む……」



幼馴染との通話を終え、俺は近辺を捜しに出た。

もしかしたら買い物に出ただけかもしれない。

ネガティブな思考に陥らないよう心掛けるが、彩萌の姿はどこにも見当たらなかった。


社用車やタクシー会社にも確認してみたが、利用した形跡は見つからなかった。

電車に乗っていたら、捜すのはさらに難しい。

拳をギュッと握りしめ、流れる汗を乱暴に拭う。


念のため、一貴に連絡すると不機嫌な声で応答された。

その反応に構う余裕すらなく、現況を告げると深いため息を吐かれた。



『瑛くん、もっとしっかりしたら? 僕や叔母様に確認すればすぐわかった話なのに、奥様を責めるってありえないでしょ』



正論が耳に痛い。



「……迷惑をかけて悪かった」



『謝罪が遅いうえに、伝える相手を間違えているでしょ。大体、奥様があんなに必死にレッスンを学んでいるのは誰のためかちゃんとわかってる?』



問いかけつつ、一貴は答えを教えてくれた。

俺に恥をかかせないため、ふさわしい妻になれるようにと頑張っていたと教えられ、改めて自分の最低さを呪いたくなった。



『恋は盲目というのは本当だね。恋愛事には興味がなかった瑛くんがこうも変わるんだから。そこまでの熱い想いをなんで本人に伝えないか不思議だけど』



苦笑交じりに言われて、返答に窮する。



『奥様の行方は僕も捜すよ。見つかったら、今度こそきちんと本心を話すようにね』



「……助かる、ありがとう。彩萌のレッスンをこれからもよろしく頼む」



『まったく、このタイミングで依頼しないでくれるかな?』



呆れながらも快諾してくれた従兄弟の優しさに、少しだけ救われた気がした。
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