独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「お互いがお互いのカモフラージュだったから、婚約破棄は当然の結果なんだ。里帆はパティシエになるために、俺は梁瀬家の変革のために協力しあっていた」



けれど朝霞さんの実家にバレそうになり、さらには親族に結婚を迫られ、計画変更を余儀なくされたらしい。

朝霞さんが行方不明になっている間、代理で婚約者を務める女性として私が選ばれたという。



「あの、代理婚約者って? 私は契約結婚って最初に聞いたけれど」



「……俺がお前に惚れたから、強引に結婚に持ち込んだ」



とんでもない発言に、ひゅっと息を呑んだ。

直接的な表現に頬が熱くなる。



「お前はあの日、後輩の話を聞いて、窘めて……褒めていただろう?」



尋ねられ、遠い記憶を探るがどこか朧気だ。

私にとってはそれほど特別なものではない。

正直に告げると、彼は眉尻を下げる。



「そんな彩萌だから好きになった。少なくとも俺にはできないし、された経験もない。俺にはなによりも特別だったよ」



語られた、義母の結婚生活と幼い頃の日々に胸が軋む。

同時に、本家や分家という強すぎる繋がりやしきたりに、瑛さんが難色を示す理由がよくわかった。

朝霞さんに、事前に少し聞いていたとはいえ、当時の彼の心中を思うと胸が痛かった。



「彩萌の母親の援助を条件にするつもりはなかったんだ。だがどうしてもお前を手離したくなくて、そばにいてほしくて、卑怯な真似をした。里帆の件も最初から仕組まれていたのに黙っていた……本当にすまない」



瑛さんは視線を落とし、私の手を握る指に力をこめる。
< 157 / 174 >

この作品をシェア

pagetop