独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
お腹が張り、歩きにくくなり緩やかに痛みがやってきたとき、瑛さんはすでに出社していた。

病院に問い合わせると、来院を促された。

彼に電話で状態を伝えると、急いで帰宅してくれた。

まとめてあった荷物を抱え、彼自身も動揺しているためタクシーで病院に向かった。



『おめでとうございます。元気な男の子ですよ!』



薫の元気な泣き声を耳にした途端、嬉しさと安堵で力が抜け、涙がこぼれた。

立ち会った瑛さんも目を真っ赤にしていた。



「……ありがとう、彩萌。本当に、お疲れ様」



震えて掠れる声を聞いたとき、こらえていた想いが弾け涙があふれた。

嬉しそうに眉尻を下げる瑛さんと小さな息子の姿に、幸せを噛みしめていた。



現在私は、育児休暇中だ。

代々の当主夫人は結婚時に退職が常だったので、今度こそ退職すべきかと悩んだ。

義母と富田さんから学んでいるとはいえ、まだまだ完璧には程遠い。



『未来の当主夫人としての務めを果たそうとしてくれるのは有難いが、それだけに専念するのが本当に彩萌のしたいことなのか?』



退職を口にすると、彼に尋ねられた。



『梁瀬の家は縛られるものが多いが……俺は夫婦になって、結婚とはお互いが幸せになるためのものだと実感した。双方の希望すべてを完全に叶えるのは難しくても、譲り合ったり、方法を模索すべきだと思う』



『瑛さん……』



『仕事を続けたいなら、続ければいい。作法やマナーはゆっくり身につければいい。両親も俺も、協力を惜しまない。特に母は、窮屈な生き方を選ぶなと言うと思うぞ』
< 167 / 174 >

この作品をシェア

pagetop