独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
玄関の扉が開く微かな音がすると、薫が顔を動かした。



「パパが帰ってきたみたい。お迎えに行こう」



「うー」



嬉しそうに手を上げる息子を抱き上げ、リビングの扉を開ける。



「お帰りなさい、お疲れ様」



「ただいま、彩萌、薫」



ふわりと頬を緩ませた瑛さんが、足早に洗面所に向かう。

彼は帰宅すると、真っ先に手洗いを済ませる。

素早く着替え、再びリビングに戻ってきた。



「ただいま」



もう一度口にし、薫を抱きしめている私をギュッと優しく抱きしめる。

ここ最近の帰宅挨拶の定番スタイルだ。

私にキスをして、瑛さんはゆっくりと息子を抱き上げた。

視点が高くなった息子は嬉しそうにキャッキャッと声を上げている。

様々な変革に乗り出している今は、以前より多忙だと思う。

それでも極力早めに帰宅し、労わってくれる。



『自分の子どもを育てるのは当たり前だ。むしろ一日の大半薫の世話をしてくれている彩萌のほうが重労働だろう。それなのに家事もこなしてくれてありがとう。でもひとりでなにもかも頑張らず、もっと頼ってくれ』



家事や育児が完璧にできない、と不安を抱えていた私は、彼の言葉に救われた。

まるで私の悩みを見透かしたようなタイミングと言い方に、思いやりに、泣きたくなった。

家事はハウスクリーニングを頼んでもいいし、丸投げしてくれてもいいと明るく言われ、心が軽くなったのを今でもよく覚えている。
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