独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「――お帰りなさいませ」



制服を着た人々が、一斉に彼に声をかける。

足を踏み入れた本家は、まるでホテルのようなしつらいだった。



「父は?」



「皆様、応接室でお待ちです」



初老の男性の返答にうなずいた彼は、私の手を引く。



「彼女が俺の婚約者だ」



簡単すぎる紹介に慌てて頭を下げると、無言で頭を下げ返された。

名乗りもしないまま、長い板張りの廊下を歩いていく。

飾られている調度品類はきっと高価なものなのだろう。

前に進むたびに、硬質で重苦しい雰囲気を感じる。

ひときわ大きな扉の前で彼が立ち止まり、軽くノックする。



「ただいま戻りました」



「入りなさい」



室内から聞こえた男性の声に、瑛さんが扉を大きく開く。

足を踏み入れた応接室は、二十畳近い広さがある。

中心部に豪華で大きなテーブルが置かれ、十脚ほどの椅子には老若男女が腰を下ろしていた。

上座に座る男性がゆっくりと立ち上がると、倣うように全員が腰を上げた。



「お帰り。ずいぶん早かったな」



「ええ、期待通りの返事がいただけたので。彩萌、父だ」



これまたあっさりした紹介に、目を見開いた。

緊張で体が強張ってしまう。

周囲の射るような視線を無視した瑛さんが、私を父親の目の前に引っ張っていく。



「は、初めまして、新保彩萌と申します」



「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ない。瑛の父です」



口元は弧を描いているが、目元はまったく笑っていない。

皺が刻まれ、日に焼けた面差しに涼やかな二重の目は瑛さんとよく似ている。

梁瀬グループトップの、圧倒的な存在感に足が竦みそうになる。
< 27 / 174 >

この作品をシェア

pagetop