独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
私、絶対に場違いよね……。



「いくら急ぎだったとはいえ、こんな突然……新保さんに失礼でしょう。息子が無粋な真似をしてごめんなさいね。初めまして、瑛の母です」



訪問着を上品に着こなした、小柄な女性に話しかけられる。



「新保彩萌と申します。急にお邪魔いたしまして申し訳ありません」



頭を下げる私に、降り注ぐ視線が怖い。



「どうぞ顔を上げて。かしこまる必要はありません。よく来てくださったわ」



恐る恐る頭を上げると、これまた父親と似たような笑顔で見つめられた。

さらには全身に一瞬だけ視線が向けられ、自分の装いを思い出す。

……どう考えても結婚相手の自宅を初めて訪問する服装ではない。

間違いなくおふたりは気分を害されているだろう。

立場のある方々なので口にだされないだけで。

もちろん、夫となる人が弁明など引き受けてくれるはずもない。



経緯を自分自身で釈明すべき? 



それとも素直に謝罪したほうがいい?



頭の中に湧き上がる、幾つもの選択肢に混乱する。

手にはじっとりと嫌な汗が滲んでいる。

きっと瑛さんに繋がれた手も汗ばんでいるだろうが、今はそれどころじゃない。



「――失礼ですけど、奥様。私たちにもご紹介いただけませんか?」



上座にほど近い席に腰かけた、五十代くらいの和装姿の女性が声を上げた。

糸のような細い目が特徴的だ。



「いったい、どちらのお家の方かしら?」



「会合にあんな姿で来るなんて、まったく礼儀がなっていない!」



女性の声を皮切りに、さざ波のように声が広がっていく。
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