独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
圧迫されるような息苦しさと心細さにパニックになりかけ、視線を彷徨わせると、上座に立つ瑛さんと目が合った。

彼は睨むように私を見据えていた。



『二度目になるが、車から降りたら気は抜くな。誰になにを言われても聞き流せ』



『本家は俺の実家だが分家をはじめ、普段から多くの人間が出入りしている。お前との婚姻に難色を示す家はあるが……俺は彩萌を選んだ』



少し前に告げられた台詞が、脳裏によみがえる。

不安と焦りでこみ上げる涙を、必死に押し戻す。

ここで、泣いてはいけない。

震える足に無理やり力を入れ、唇をギュッと噛みしめた。



……自分で選択した道よ。



逃げるわけにいかないわ。



私は決して気が強いほうではないし、負けん気もない。

ただ、一度自分が決めた出来事を投げ出すのは大嫌いだ。

芙美にはしょっちゅう変なところで頑固で意地っ張り、と苦言を呈されているけれど。



「まあ、私たちを睨んでいるの? これだから教養のない人は!」



金切り声が一層激しくなる。

覚悟を決めたとはいえ、終わりの見えない攻撃に心が折れそうになる。

思わず下を向きかけたとき、グッと肩と腰を引き寄せられた。



「――ご意見は、それですべてですか?」



私を背後から抱きしめた瑛さんが、落ち着いた声で話す。



「なにを勘違いされているかわかりませんが、彩萌は私が望み、選んだ、唯一の花嫁です。彼女以外と結婚するつもりはない」



最後の言葉は丁寧さが抜け落ちていた。

腰にまわった腕にギュッと力がこめられる。



「……瑛、さん?」



「よく、頑張った」



振り仰ぐと彼が口角を上げる。

初めて目にする柔らかな表情に気が緩み、力が抜けていく。

目の前が真っ白に染まった気がした。



「……おいっ! 彩萌?」



何度も名前を呼ばれた気がしたが、私の意識は完全に途切れていた。
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