独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「腹が減ってきたのはいい傾向だ。恥ずかしがらなくていい」



薄く目を開けると、なぜか嬉しそうな様子の瑛さんがいた。

今までで一番柔らかい雰囲気に、心が落ち着かない。



「そろそろ起きるかと思って、用意していたから持ってくる」



「いえ、あのっ……」



言うが早いか、立ち上がった彼は部屋を大股で出ていく。

黒い長袖シャツにグレーのパンツというくだけた装いなのに、まるでモデルのように洗練されて見える。

ふう、と息を吐き、横たわったまま布団からゆっくり手を出した。

初対面なのに、なにからなにまでお世話になりっぱなしで申し訳ない。

そのとき、身に着けている衣類の違和感に気づく。

恐る恐る布団をめくると、瑛さんが着ていたのと同じような部屋着が見えた。



……ちょっと待って、私、いつ着替えたの?



そもそも誰が着替えさせてくれた?



恥ずかしさで、頭の中が軽くパニックになる。



「どうした? 顔が赤いが……熱がぶり返したか?」



問いかけとともに、瑛さんが食事を載せたトレーを手にして部屋に入ってくる。

ベッドサイドのテーブルにトレーを置き、私の額と自分の額を躊躇いなく合わせた。

流れるような動作に鼓動が大きく跳ね、瞬きすら忘れてしまう。



「……熱いな。つらいか?」



体を離した瑛さんに、とくに気にした様子はない。



「だ、大丈夫です」



やっとの思いで声を発する。

着替えについて尋ねなければ、と体を起こそうとした瞬間、くらりと目眩がした。



「危ない」



瞬時に、私の体が抱きとめられる。

大きな手が背中に回り、至近距離に美麗な面差しが迫る。
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