独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
その後、初夜を迎えるため用意された豪華なスイートルームへと移動した。

恐る恐る部屋に足を踏み入れる。

入り口のドアが閉まった途端、彼にバスルームに押し込まれ入浴するように言われた。

ドレスの背中部分にある、幾つものホックや結び目は大きな鏡を確認しながらでも、なかなかほどけない。

本来は新郎に優しく外してもらうようだが、そんな助力は頼めない。

部屋に向かう途中ですら、会話もなく、目も合わなかったのだから。

ひとりになると急に疲れを感じて、磨かれた冷たい床にぺたりと座り込んだ。

幾重にも折り重なるドレスの裾のおかげか足も冷えず、痛くない。

豪奢なドレスを脱ぐまで、どれだけ時間がかかるだろう。

強く引っ張られ結い上げられた髪のせいか、頭がズキズキと痛む。

まだ半分も外れていないホックを、恨めし気に鏡越しに見ると、ドアが軽くノックされた。

ビクッと反射的に立ち上がれば、サラサラとドレスが衣擦れの音を立てる。


「……水音が聞こえないが、まだシャワーを浴びていないのか?」


ドア越しに訝しむように尋ねられ、慌てて声を出す。


「す、すみません。あの、私は後で入りますから……よかったら先にどうぞ」


「……は? 今までなにをしていたんだ?」


不機嫌そうな声に返答に窮する。


……ドレスが脱げない、なんて言えない。


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