独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「――で、御曹司と寝たうえ、今日から住所が変わるのね?」



五月半ばにしては高い気温の金曜日の昼下がり、テーブル席の向かい側に座る芙美が呆れたように尋ねた。



「芙美!」



「事実でしょ」



親友のあけすけな物言いに、ため息を吐く。

先週の日曜日の夜、反対を押し切り帰宅した。

引っ越し準備がしたいと言い張ると渋々了承し、自宅マンションまで自身の愛車で送ってくれた。

どうやら自分で運転するのが好きらしい。

倒れた一件もあるので部屋の前まで送ると言われたが、固辞した。

その代わり別れ際に、なぜか荒々しく唇を奪われた。


自室の鍵を開け、見慣れた我が家に心が緩む。

重い体を引きずり、ベッドに腰かけると芙美から電話がかかってきた。

昨日私に連絡したが今日もなんの反応もないので心配になった、と言われた。

混乱した現状をできるだけ簡潔に伝えると、きっちり詳細な説明を求められてしまった。



そして、今に至る。

今週はお互いに忙しく、比較的落ち着いた金曜日の今日、会社から少し離れたベーカリーカフェに向かう。

さすがに社員食堂では婚約について話せない。

ちなみに親友に婚約について話したいと瑛さんに申し出ると、了承された。

瑛さんからは業務連絡のようなメッセージが毎日来ている。

引っ越しや私の体調に関するものがほとんどだ。

引っ越しを今さらやめるつもりはないのに、信用されていないのだろうか。
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