独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「彩萌の決心が固いのはよくわかったけど、我慢しすぎないようにね。なにかあったらすぐに言うのよ?」



「うん……ありがとう」



「同居したら、御曹司と本当に恋に落ちるかもよ?」



「ありえないわ」



親友の悪い冗談を一蹴する。

本心も考えもよくわからないし、お互いの距離が今後近づくとも思えない。

でもなぜか私を約束通り“守ろう”としてくれている。

簡単に反故にできる些細な口約束を、律儀に守る姿に心が揺れ動く。



「看病してもらったんでしょ? 本家に預けてもよかったのに、自宅に連れ帰って付きっきりで自らお世話なんて、どうでもいい相手にするかしら? しかも御曹司がよ?」

 

「……本家での一件を謝罪されたし、罪悪感があったのかも。目が覚めてからもずっと心配してくれていたもの」



芙美の言葉を肯定したくなくて、素っ気なく返答する。

冷酷な態度の間に垣間見える優しさに戸惑う気持ちを、うまく表現できない。



「なんていうか……前途多難ね」



「私もそう思う」



「違うわよ。ふたりとも不器用そうだから」



親友が呆れたように、よくわからない感想をつぶやく。



「とにかく、引っ越しの手伝いが必要なら言ってね。あら、もうこんな時間、戻らなきゃ」



腕時計に視線を落とした芙美が、慌ただしく立ち上がる。



「……うん、ありがとう」



返事をして、私も荷物を手に腰を上げた。

会計を済ませ、店の外に出る。

他愛無い話をしつつ会社に戻りながら、今日から始まる同居生活について思いを馳せた。
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