独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
一日の業務を終え、残業もそこそこに退社した。

帰りは連絡するよう、言われていたので、会社を出てすぐメッセージを送った。

彼のマンションの合鍵はすでに渡されている。

まさか本当に今日までに引っ越し、退去の手配をやり遂げるとは思わなかった。

夜のとばりが落ち始めた空を仰ぎ見ていると、手にしたままのスマートフォンが着信を告げた。



『彩萌、今どこだ?』



瑛さんが挨拶もなく尋ねてくる。



「……お疲れ様です。会社を出てすぐの通りを歩いています」



『わかった』



端的な返事の直後、唐突に通話が切れた。



「も、もしもし、瑛さん?」



ツーツーと無機質な音が聞こえる。

首を傾げ、かけ直そうと画面をタップする。



「――彩萌」



名前を呼ばれ、電話が繋がったままだったのかとスマートフォンを二度見する。



「彩萌、後ろを向け」



的確な指示に驚きつつ従うと、スマートフォンを手にした瑛さんが立っていた。



「お疲れ様」



「瑛……さん、なんでここに……」



「婚約者を迎えに来た」



まさか迎えに来てくれるなんて思ってもみなかった。



……なんで、甘やかすの? 



そんな真似をしなくても逃げないし、契約撤回もしないのに。



「仕事は……」



「今日の業務は終えている。お前が気にする必要はない。……行くぞ」



そう言って、彼が私の左手を握る。

瞬時に伝わる体温に、ドクンと鼓動がひとつ大きな音を立てた。
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