独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
玄関の施錠をした彼が室内に入り、私も後に続く。

一度だけ振り返った瑛さんの表情は、先ほどとは打って変わってなぜか不機嫌そうだった。

……どうしても彼の心の機微も会話の糸口さえも、うまくつかめない。

そのまま長い廊下を歩きリビングに入っていく。

ちなみにダイニングルームはその奥にある。



「今日からここがお前の家だ」



「ありがとう、ございます」



ちらりと表情を伺いつつ、礼を告げる。



「……好きにしろ。俺に構う必要はない」



それだけ言って、踵を返そうとする瑛さんに慌てて声をかける。



「あ、あの、荷物を少し片づけていいですか?」



「好きにしろと言っている。お前はお前の生活を送ればいい」



突き放したような口調に、胸がツキリと痛む。



『……強要する気は、ない。俺に気を遣ったり遠慮しなくていい』



彼が少し前に口にした台詞が脳裏をよぎった。



ちょっとだけ、勇気を出してみよう。



契約結婚とはいえ夫婦になるのだし、この人は自分を見せようとしてくれたのだから。


一歩近づき、彼の真正面に立つ。



「ゆ、夕食を一緒に食べませんか……?」



「片づけたいんだろ?」



質問に即座に質問で返されるとは思わず、狼狽える。



「そうですけど、あの、食事をしてからでも片づけはできるので……物音を立てないように気をつけますから」



現在は午後七時半過ぎだ。

誘ってはみたものの、外食にするのか自炊にするのかも考えていない。

場当たり過ぎたかとさらに焦ってしまう。
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