独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
世界に名を轟かせる、歴史ある梁瀬財閥。

その本家のひとり息子に産まれた俺は、幼い頃からあらゆる知識と礼儀、作法を教え込まれた。

年齢が一桁の頃は遊びたくて暴れていたが、成長に伴って、自身の境遇を理解するようになった。

勉強自体は苦痛ではなかったし、梁瀬家を託される将来も嫌ではなかった。

ただ、自分を取り巻く息苦しさにも似た窮屈さはずっと感じていた。

歴史ある名家だからか、長年の積み重なってしまった驕りのせいか、悪習を慣習と考え、誰も変革しようとしない。

分家出身だった母も父に選ばれ、本家に嫁いだ。

遠縁の、力をもたない生家から嫁いだ母は親戚連中から嫌がらせをずいぶん受けたという。

父が離れを建てたのもそのせいだ。 

人の本質を見ようともせず、出自だけで優劣を競い合う。

伴侶に選ばれるため、足の引っ張り合いを繰り返す……名家が聞いて呆れる。

里帰りすらままならず、外出も制限され、仕事は退職させられる。

時代錯誤もいいところだし、女性の社会進出を推進する当社の信条に反する生き様をなんのために守るのか。

幼馴染の里帆はこのしきたりに唯一反対し続けていた。



『私、将来絶対にこの家を出るわ。パティシエになりたいの』



学生時代から事あるごとに里帆は話していた。

この悪習を断ち切りたかった俺と彼女は結託し、婚約者という名の同志になった。

長い付き合いだがお互い恋愛感情を抱いたことは一度もなく、目的を達成した際には破談にする取り決めをしていた。

もちろんふたりだけの密約だ。
< 60 / 174 >

この作品をシェア

pagetop