独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
『二十代後半くらいで結婚するつもりにしましょう。私は花嫁修業と称して、製菓の学校に通うわ。両親には行儀作法も一緒に学ぶつもりとでも言っておくから』



自身の夢に貪欲な里帆は、着々と計画を立てて実行していた。

学校を卒業後は社会での経験を積むためと周囲を説得し、販売員になるとうそぶいて製菓の職に就いた。

けれどお互いが三十歳を超えると、外野が結婚にうるさく口出しをし始めた。



『そろそろ潮時だけど、今後はフランスで学びたいの。だから瑛、私は行方不明になって準備をするわ。周囲に邪魔されず無事に渡仏できるまで疑われないように、身代わりの婚約者を探してきて』
 


『なんで身代わりが必要なんだ?』



『私が行方不明になったら、強欲な分家の人間はすぐ自分の娘を新たな婚約者として押しつけてくるわ。だったら先手を打つほうがいいじゃない』



名案とばかりに口にする幼馴染に頭痛を覚える。



『……いくらなんでも唐突すぎるだろ』



『だってこうでもしなきゃ、両親に私の本気は伝わらないもの。さすがに失踪したら考えを改めてくれるかもでしょ』



そう言って、幼馴染は表情を曇らせる。

里帆は両親にずっと自分の夢を伝え続けてきたが、いつも無下にされていた。



『勝手だとわかっているわ。フランスでの生活がひと段落したら一旦戻って、瑛が本社での地位を確立するのに協力するから。しきたりを撤廃したら、お互い自由な道を大手を振って進みましょ』



相変わらず人の話は聞かないうえ、自分本位の考え方にため息しか出ないが、お互い様だ。

さらに行方不明になっている間に婚約破棄もしてしまおうと話を詰めた。

そして白羽の矢が立ったのが、彩萌だった。
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