独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
引っ越しをしてから、あっという間に一週間が過ぎた。

なし崩しになってしまった初日の部屋の片づけは、翌朝早く起きて取り組んだ。

ところが体に力が入らず、責任を感じたのか瑛さんがずいぶん手伝ってくれた。

しかも夕食の後片づけも、起きたときにはすでに終わっていた。

どうやら、ひとりで掃除してくれたらしい。

なにもかも完璧な婚約者に、複雑な、申し訳なさを含んだため息が漏れた。


彼との生活は予想に反して、穏やかなものだった。

元々干渉するなと釘を刺されていたし、自分のリズムで生活するよう強く言われている。

互いに深く踏み込まず、何度体を重ねても本当の意味では交じり合えない契約上の関係。

以前は納得していた事柄が、今はなぜかとてもつらい。

瑛さんは多忙で帰宅が深夜になる日が多く、私が先に休んでいる場合もしばしばだ。

けれど朝になれば、体には彼の腕が巻き付いている。

最初の頃こそ驚いたが、最近はその体温に安心してしまう。

さらに彼は深夜に帰宅する日以外は、ほぼ毎夜私を抱く。

日々の業務で疲れているはずなのに、情熱的に甘く攻め立ててくる。



ねえ、それほどまでに後継者を切望しているの?



なぜ、優しく触れるの?



疑問は日に日に増えていくけれど、なにひとつ言葉にできない。

さらに生活費を一切受け取らない。

潤沢に資金があるわけではないが、私だって働いているのだし、支払い能力はあるのに。



『この結婚を言い出したのは俺だ』
 


『でも夫婦共働きでお互いに負担するのは珍しい話ではないです。結婚の条件でもないですよね』



もう何度、似たような言い合いを繰り返しただろう。

契約結婚について言及すると、決まって不機嫌になり、その日はとても激しく抱かれてしまう。

気がつけば夜が明けていて、自分の給料は生活費以外で好きに使え、と結局言いくるめられる。


少しでも彼の負担を減らしたいと思う私は間違っているのだろうか?
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