独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
六月に入り、雨が降る日が多くなった。

そろそろ梅雨入りが近いのだろう。

今朝もカーテンを開けると、分厚い灰色の雲が広がっていた。



「今週末、うちの系列ホテルにドレスの試着に行くつもりだが構わないか?」
 


朝食の準備をしていると、背後から抱え込むようにして声をかけられた。

昨夜も激しく抱かれた体は、素早く反応してしまう。



「あ、ええと……はい」



取り乱し、落としかけたミニトマトを彼が長い指でつまむ。

背中越しに伝わる体温を妙に意識し、頬に熱が集まる。



「……体、つらいか?」



そっと腰に手を当てられて、肩がびくりと跳ねる。



こんなときは、どう答えるのが正解? 

 

お願いだから、返答に困る質問をしないで。



「だ、大丈夫」



「……悪い、無理をさせた」



そう言って、私のほつれた髪を耳にかける。

骨ばった指が頬を掠める感触に、昨日の激しい情事をありありと思い出し、体温が上がる。

朝から完璧な容貌の婚約者に至近距離で迫られて、鼓動が悲鳴を上げている。



ねえ、知らないでしょう?



あなたが気まぐれに優しく触れるたびに、どれだけ戸惑って焦っているのか。



「あ、の……ドレスというのは」



妖艶な雰囲気に吞み込まれないよう、無理やり言葉を絞りだす。

同時に振り返り、少しだけ距離をとった。

濃紺の細いストライプのスーツが今日も悔しいくらいに似合っている。
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