独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「七月の結婚式のドレスだ」



「結婚式って……」



「もちろん俺たちのな」



しれっと口にされ、目を見開く。



「早すぎませんか?」



「最初に大まかなスケジュールは伝えただろう?」



なぜか若干声のトーンが落ちる。



「もちろんわかっているけど、準備とか一カ月程度でできるものなの?」



結婚退職した同期は確か、半年以上前から準備を始めていた気がする。


「結婚式は梁瀬一族への正式なお披露目のようなものだ。下手な邪魔が入る前に行いたい。準備期間など、お前が気にする必要はない」



「……わかりました」
 


事務的で、否定的な口調に、なぜか心が沈む。

一生に一度の晴れ舞台と言われる結婚式でさえ、浮かれるイベントではないと思い知らされる。

なにより彼が楽しみにしているようにはとても見えない。

条件だとわかっているのに、胸が軋む。

ともに暮らす毎日が続けば続くほど、こういった線引きがつらくなってくる。



いったい私はどうしてしまったの?



「彩萌、敬語」



「あ……」



「今月末に入籍予定だから、それまでには直せ」



重要事項を、これまたあっさり告げられる。



「とりあえず、これからは敬語になったらお仕置きだな」



そう言って、整った顔を傾けて唇を塞ぐ。

深いキスに呼吸が苦しくなる。



「……早く直せよ?」



吐息の触れる距離から放たれた命令に、うなずくしかできなかった。
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