【砂の城】インド未来幻想
「砂の城に行きたい本当の理由は、もしかしたらこれにあるのかしら?」

 シュリーのからかうような(なま)めかしい視線に、ナーギニーの瞳は咄嗟に見開かれ丸くなった。固まったように動かなくなった彼女を残したまま、シュリーは颯爽と立ち上がる。少女の家族が到着する前に、逆側から正面へ向けて駆け出した。

「それじゃ、ナーギニー。明後日ねー!」

「あ……うん、さようなら、シュリー」

 ――さようなら、シュリー。

 ナーギニーの他愛もない挨拶がシュリーの耳に届いた時、彼女の心の片隅にある小さな何かに触れた。それを少女に気付かれぬよう、シュリーは懸命に走り続ける。

 誰の姿も見えない暗がりまで駆け抜けて、彼女はふと足を止め空を仰いだ。どんよりとした薄暗い、濁った汚泥(おでい)のような(けが)れた(そら)。それでもこれが今の地球を包み、今生きる人々を「生かしている」。

 ――あなたはわたしが守るわ……わたしが、必ず――

 自分の(いだ)く固い決意を、改めて胸に刻みつけた。

 そしてその引き締められた秀麗な(おもて)は、雲の狭間の(ソーマ)に照らし出され、美しく清く輝いていた――。


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