【砂の城】インド未来幻想
「うん、平気よ。ごめんなさい、心配を掛けて」

 同時に布を滑らせ隣にしゃがみ込んだナーギニーも、風から生気を取り戻すように、すぅっと息を吸い笑顔を見せた。お互い心配したよりも元気な様子でホッと胸を撫で下ろす。シュリーは別のラクダに預けていた荷から小さな包みを取り出した。広げてみせた容器の中には、鮮やかな山吹色のガジャール・ハロワがぎっしり詰め込まれていた。

 たっぷりの人参を粗くおろし、ゆっくりとミルクで煮詰めたその菓子は、砂糖の甘さと人参本来の甘さが絶妙に絡み合い、舌の上でじんわりと溶けていった。カルダモンの爽やかな香りが口の中に広がる。「疲労回復にはちょうど良いでしょ?」――そう告げて、ナーギニーの喜ぶ顔を見つめたシュリーは、同じようにニコニコとはにかんだ。

「これ、シュリーが作ったの? とても美味しいわ」

「ええ、ありがとう。もう一つ食べる?」

 ラクダの群れは少し離れて足を休め、使いの者達もその陰で、会話も交わさず静かに待機している。お陰でほぼ二人きりであると思えば話も弾む。このひとときはナーギニーにとって、今までで一番楽しい時間であったのかもしれない。反面、料理さえもさせてもらえなかった自分を哀れに思ってみたりもするのだが。


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