【砂の城】インド未来幻想
「あの……刺繍を、してみたいわ……針で指を傷つけたらいけないと、させてもらえなかったから。とても刺してみたい模様があるの……」

「いいわ、教えてあげる。わたしも刺繍は大好きなの。どんな模様を作りたいの?」

 その言葉で瞳に宿された輝きは、一気に全身を取り巻き打ち震わせた。

「えぇと……ガ、ガネーシャ神を……」(註2)

「ガネーシャを? ガネーシャ村に住んでいるからかしら?」

 この質問にはナーギニー自身も思い当たる答えがなく、ただ分からないと小首を(かし)げた。けれど伝え切れない少女の心の中では、何かが確かに動き出していた。しまい込んで忘れてしまった小さな宝石箱。それを見つけ出し開いた時のような、期待に満ちた想いがゆっくりと心を潤していく。

 そんな彼女の(つや)やかな頬は、まるで未熟な柘榴(ザクロ)のように、ほんのり紅く染められていた――。



[註1]死者の王ヤマ:日本でも取り入れられて、閻魔(えんま)大王と呼ばれています。


[註2]ガネーシャ神:学問や商業の神様で、頭部は片側の牙が折れた象の顔をしています。


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