【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーを(いざな)う使者達は、その中心部で一旦車を停めた。一人は小さな店先で給油を始め、もう一人は店の奥へ進み戻ってくると、少女に無言で何かを手渡した。戸惑いながらも受け取ったのは、バナナの葉にくるまれた食糧と、素焼きの器に入れられたぬるいミルクティー(チャイ)。広げてみればパロタと呼ばれる平たいパンの間に、スパイスで炒めたジャガイモ(アル)が挟まれている。シュリーを想えば食欲など出てくる筈もないナーギニーであったが、もし彼女とすぐに合流出来たならば――動ける自分でなくてはならない――そう思えばこそ、かたくなに閉じた唇に力を込め、何とかそれらを喉へ通した。が、再会出来た時のシュリーの為、パロタの半分は残して葉に包み直し、使者達に気付かれぬよう(ふところ)へ隠した。

 再び乗せられ発進したジープは、砂の城のある東方を目指した。中心部から六キロほど進んだ先に、今まで道標(みちしるべ)の役目を果たしてくれたヤムナ河と、あの偉大なるガンガーの合流地点(サンガム)がある。遥か昔であれば、雄大に流れる豊かな水景が広がっていた聖なる地だ。もちろん他と異なることはなく水流は涸れ果て、もはや中洲らしき地形が残されているのみだった。


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