【砂の城】インド未来幻想
 運転席の使者がおもむろにエンジンを掛け、車輌は後ろ向きになだらかな斜面を降りた。下がるにつれ、闇に(まと)われていたフロントガラスから、凝らせば判る程度の光景が広がっていく。其処はセピア色に染められた地下深くの洞窟だった。再び停まった車輌から降ろされて、すっと吸い込んだ涼しい空気は、今までに感じたことのない十分な水の()を含んでいた。

 使者達の眼は正面に立つナーギニーの真後ろを見据え、その方向へ進むべく彼女の両端を音もなく通り過ぎた。二人の影に引きずられるように、ゆっくりと自分の背後へ振り返る。大きな瞳が捉えた物は、永遠に続きそうな洞穴の闇と、天井を荘厳に飾る鍾乳石の芸術品、そして足元の延長上に、初めて見る細く長い『河』が伸びていた。

「あ……――」

 ナーギニーは思わず小さな声を洩らした。


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