【砂の城】インド未来幻想
 選ばれることのない貧しい人々は、いつしかこの城を『砂の城』と呼ぶようになった。城は人々に快楽を与え、その報いとして人々の心を吸い尽くす。心を砂で満たされた城――砂の城。現実は水で潤された楽園ではなく、砂に覆われた大地の中にあるのだ。楽園は砂で出来た蜃気楼。砂に隠された幻。しかしそんなひがみ根性は一部分の民だけに限られ、大衆の多くは豊かな城の生活に憧れていた。

 が、夢の如く一夜にして覚める民間の望みも、三年に一度、夢が夢でなくなる時が来る。『寵姫選良披露』――その名の通り、シャニの(めかけ)を選出する一大行事と化した式典だ。

 一州につき一名、選ばれた十二歳から十八歳までの健康な生娘(きむすめ)を、一週間シャニの目の届く宮殿へ住まわせ、その後披露式において心に決めた少女を妾妃(しょうひ)として迎え入れるというものである。もちろんシャニの何十、何百という妾の内の一人であったが、娘だけでなくその家族も郊外へ受け入れることで、この多数の妾を持つというシャニの傲慢な振る舞いは、時の過ぎゆくまま続けられていた。そしてそれから二十五年、もはや六十を越える老体となったが、彼の類まれなる好色は一向に衰える気配を見せずにいる。


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