【砂の城】インド未来幻想
 砂の城の広大な領域は、透明なドームで覆われているとの噂であった。しかしナーギニーの見上げた天井はそのような限りを見せず、あたかも永遠に続く空間を描いていた。夕暮れ時を演出する見事な太陽が、大画面をそろりそろりと降下していく。甘橙(オレンジ)色に照らされた大地は、背の高い椰子の木が配された大通りを中心に、右側に住宅地・左側に農地と牧草地が整然と並び、それは余りにも秩序立って、むしろ不自然なようにも感じられた。

 空気は()くまでも澄み渡り、砂の臭いなど微塵も感じられない。けれど不思議とアグラの街のような活気も賑わいもなく、広々とした一つの国がただ静かに横たわっている(さま)は、不気味ささえも漂わせていた。

 そして――それらの遠く、視線の真正面でありながら遥か先に『砂の城』は在った。

 ナーギニー達が辿り着いた西側からは、右を向いた白大理石の宮殿と左を望む黒大理石の王宮が、ちょうど背中合わせに見て取れた。両宮は一寸の狂いもなく同じ形状をして、更に一寸の狂いもなくタージ=マハルを模している。まるでムガール王朝の栄華復活を思わせる優美な姿と、シャー・ジャハーンの望んだ愛しい未来が完璧に再現された世界――それがあたかも国家の、否、世界の中枢を集約するかのようにこの地に君臨していた。


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