【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーは中央奥の螺旋階段を上がった先、回廊を右手に進んだ一番端の個室へ案内された。正面に最も近い東南の角部屋だ。海を思わせる鮮やかな扉を目前にして、背後の二人に礼を言うべく振り向いたが、仕事はとうに終えたものと、使者達は既に階段を降り始めていた。

 一人取り残されたナーギニーは、いつの間にか深い溜息をついていた。それは何に対するものだったのだろう。自分のこと・家族のこと・シュリーのこと・シヴァのこと……? 立ち尽くしたまま何度となく溜息が続く。この幾重にも分かれた静寂(しじま)には、明日を夢見る何十という美姫が、打ち寄せられるが如く朝を待っている。しかし彼女達の零す溜息は、ナーギニーのそれとは全く異質な物に違いない。幸いが身に降り注ぐその時までの緊張が、震える吐息を洩らさせているに違いなかった。

 数回の嘆息の後、特に変化のない状況を諦めるように、少女は銀色に光るドアノブに手を掛けた。開くと共に心の扉もカチッと音を立てたような、不思議な時の流れを感じた。


< 148 / 270 >

この作品をシェア

pagetop