【砂の城】インド未来幻想
十七年前、ナーギニーの母親が涙を飲んで決意したこととは、この生まれて間もない赤子を、何万分の一の確率によって選ばれる妾妃に仕立て、自分達もドームの中で砂に脅かされることもなく、快適に暮らそうというものであった。毎年行なわれてきた選良披露によって人口過密となった数年前、選出は三年に一度と回数を縮小された上、十四の時、高熱に浮かされ出場出来なかったナーギニーにとっては、今年が最初で最後の機会となる。その始まりが……あと一週間というところまで迫っていた。
お陰でいつになく専念される母親の心配りが身に沁みて、彼女の外界への恐怖心は更に深まっていった。
シャニなどという強欲な老齢の者に嫁ぎたくなどないが、両親への恩は忘れられない。それにもし寵姫として選出されなければ、彼女はどんな運命に苛まれることか。どちらにせよその眼前に現れるのは「不幸」の二文字に過ぎなかった。
少女は一息小さな伸びをして、一旦ずらしていた視線を再び窓の外へ戻した。依然として砂の気が漂い、少しずつタージ=マハルの影が淡くなっていく。どこまでもどこまでも続く砂漠。終わりという文字はなく、ただひたすら起点へ戻る為の前進。血を固めたような黒々とした紅い空と、砂や墓廟の白さの対比は妖しい鮮やかさを放ち、彼女の滑らかな頬を照らした。
お陰でいつになく専念される母親の心配りが身に沁みて、彼女の外界への恐怖心は更に深まっていった。
シャニなどという強欲な老齢の者に嫁ぎたくなどないが、両親への恩は忘れられない。それにもし寵姫として選出されなければ、彼女はどんな運命に苛まれることか。どちらにせよその眼前に現れるのは「不幸」の二文字に過ぎなかった。
少女は一息小さな伸びをして、一旦ずらしていた視線を再び窓の外へ戻した。依然として砂の気が漂い、少しずつタージ=マハルの影が淡くなっていく。どこまでもどこまでも続く砂漠。終わりという文字はなく、ただひたすら起点へ戻る為の前進。血を固めたような黒々とした紅い空と、砂や墓廟の白さの対比は妖しい鮮やかさを放ち、彼女の滑らかな頬を照らした。