【砂の城】インド未来幻想
 今までの経緯を思い出しつつぼんやりと見渡した食事の中に、この道中力を与えてくれた人参菓子のガジャール・ハロワを見つけた。シュリーの手作りよりも上質の人参を使っているのだろう、鮮やかな(だいだい)色をして形も美しい。ナーギニーは懐かしさと共にそれを一口含んでみたが、舌の上で溶ける甘さと味わいは、シュリーの物の方が格段上だ。

「シュリー……」

 今一度呟いた名が部屋に微かに反響(こだま)した。きっとこの打ちひしがれた自分を見たら、シュリーはあっけらかんと笑うのだろう。「心配する暇があるのなら、精をつけてちょうだい、ナーギニー」そう言われた気持ちがして、ナーギニーはスッと背筋を伸ばし、冷たいパラタに手を伸ばした。温かな食事の半分はシュリーの為に――そう決めて、自分の分の食事を済ませたのち、砂にまみれた身を清める。今まで貰ったシュリーからの励ましを反芻(はんすう)しながら、ナーギニーは寝台に身を横たえた。

 柔らかい上質の羽毛が、優しいシュリーの笑顔を思い出させる。その(なご)やかなぬくもりを(いだ)いて、少女はいつの間にか事切れたように、深い眠りへ導かれていった――。


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