【砂の城】インド未来幻想
 礼に応えるよう小さく会釈を返した女性達は、それ以上何も話すことなく退室をした。が、その時昨夜の残した食事ごとワゴンを回収されてしまい、少女は今後の対処に悩んでしまった。この朝食もきっと昼食会の間に片付けられてしまうのだろう。けれど食事を隠しておく場所など何処にもない――ならば他に方法は?

 それでもナーギニーは唯一の光明を見つけ出した。シュリーと約束したのは「真夜中のみの密会」だ。もしこのまま夕食は翌朝に回収されるのであれば、せめてそれだけでもシュリーに提供することが出来る――その希望を抱いて、もちろん突然日中に再会出来ることも願い、昨日のように食卓の半分だけを胃に収めることにした。

 それから朝の湯浴みを済ませ、自宅でも欠かさず行なっていたシヴァ神への祈りを捧げた。身支度をしている内に、もう時刻は会食の間近となっている。約束の三十分前に迎えにくると告げられた通り、きっかりその時間に三度目のノックが響き渡った。開かれた扉に今回は彼女らではなく、夕焼け色のサリーに身を飾られたナーギニーが近付く。吹き抜けをぐるりと巡る回廊には、色とりどりのサリーを(まと)った美しい少女達が、侍女達に連れられて螺旋階段に集まっていた。


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