【砂の城】インド未来幻想
「ナーギニー」

 いきなり呼ばれた名に、ナーギニー本人は心臓が止まりそうなほど驚いた。刹那集中する、妬みを含んだ美姫達の瞳。

「君はこの……私達の間にある空席に座る筈だった。君が座っているのはシュリーの席だ。彼女はどうしたのかね?」

「は……はい」

 蛇に睨まれた蛙のように、ナーギニーは身動きの出来ぬまま返事をした。席順はきっとあの許可証を元に決められたのだと気付かされる。だからこそ『シュリーとして入国した』ナーギニーの席は此処だったのだ。

「旅の途中……ドールに襲われて、しまいました……」

 か細い声を何とか紡ぎ説明をした。同時に心から溢れ出すあの襲撃の惨劇とシュリーへの銃撃。かろうじて涙は押し留めたが、語尾の震えは止まらなかった。


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