【砂の城】インド未来幻想
「落ちてくれたら、良かったのに」

「え……」

 真上の唇は嘲笑うように片側だけが吊り上がっていた。そそくさと走り去る残像が眼に焼きつく。ナーギニーはしばらく階段の手すりに寄りかかって、時が心を落ち着かせてくれるのを待つことしか出来なかった。



 ようやく自分を取り戻したナーギニーは、とぼとぼと自室に戻り寝台の長手に腰を下ろした。きつく握り締めた両手をじっと見つめる。会食の時もテーブルの下では出来()る限りそうしていた。

 (シャニ)の何もかも見通したようないかがわしい視線、青年(シヴァ)の正体と彼の抑圧された立ち位置、少女達(ライバル)の容赦ない仕打ち……全てがナーギニーを中心として、暗黒の渦を描いているように思えた。この中からどのように光明(こうみょう)を見つけたら良いのか、いや……この中にそもそも光などあるのだろうか? もしも選ばれたなら、その先の生きる希望は何処から求められる? もはや何も見出せそうになく、ひたすら俯いて溜息だけが零れた。

 食後はおのおの自由時間を与えられ、宮殿の敷地であれば何処(いずこ)でも立ち入って良いと許可を得ている。が、先程の事件からも、ナーギニーに外へ出ていく勇気は生まれなかった。となれば逃げられるのは夢の中のみで、やがて会食の緊張から疲れが出たのか、少女はそのまま横になり眠りについた。


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