【砂の城】インド未来幻想
それから数時間、気が付けば窓から夕陽が差し込んでいた。照明を灯し、退屈凌ぎに壁際のキャビネットを覗く。上半分の硝子戸の中には、幾つかの上品な茶器が飾られ、下半分は二段の引き出しが計四列、その中身を右から順に確かめた。古典文学や聖典の分厚い冊子、誰に宛てるのか質の良い封書と便箋に、それを書く為の筆記用具も揃っている。インド神話の神を描いたカードゲームや、ナーギニーには分からない駒を動かすボードゲームも一揃い用意されていた。けれど最後の引き出しを開いて、ナーギニーの漆黒の瞳は黒真珠の輝きを帯びた。其処には白地の美しい布と、沢山の色に染められた絹糸、そして裁縫道具が小綺麗に纏められていたからだ。
「刺繍……」
少女は柔らかい糸の束を手に取り、嬉しそうに呟いた。けれど彼女に刺繍の作法など教えてくれる人物はいない。シュリー――この発見は彼女との再会を予兆する出来事なのかもしれない――ナーギニーは切なる願いにすがるが如く、一式を胸に抱き締めて、内なる震えをとどまらせた。
「刺繍……」
少女は柔らかい糸の束を手に取り、嬉しそうに呟いた。けれど彼女に刺繍の作法など教えてくれる人物はいない。シュリー――この発見は彼女との再会を予兆する出来事なのかもしれない――ナーギニーは切なる願いにすがるが如く、一式を胸に抱き締めて、内なる震えをとどまらせた。