【砂の城】インド未来幻想
 少女は言葉もなく、ただひたすらその意図を読み取ろうと集中する。意識を奪われていたそんな数秒の間に、するりと何かが自分の指の上を(かす)めた気がした。今朝遭遇したリスの長い尾だろうか? けれどこんな夜に動ける動物なのか? おもむろに視線を落とし、闇に眼を凝らす。其処には――愛らしいリスなどではなく、頭部をそそり立て、頚部のフードを立派に広げた――インドコブラが佇んでいた。

「……きゃ」

 ナーギニーは思わず僅かに声を上げてしまった。これ以上刺激を与えてはいけないと、両手で唇を覆い一歩を下がる。コブラは細い舌をちろちろと出しながら少女を見据えていた。襲う瞬間を見極めているのか、身じろぎもせずに鎌首をもたげていた。

 けれどコブラから聞こえてきたのは、シュウシュウと獲物を狙う息の()ではなく、れっきとした人間の優しい声だった。

『ごめん、ナーギニー。夜に動かせる動物が、コブラしかいなかったんだ』

「え……?」

 と、同時に先程視線を向けていた光の点滅が止まり、ナーギニーの顔を微かに照らした。


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