【砂の城】インド未来幻想
『その子の名前は蛇の王(ナーガ・ラージャ)。見た目は怖いけど、大人しいから心配しないで』

「シ……イシャーナ様?」

 ナーギニーは青年の名を呼び、目の前のコブラと光の先を、驚きの(まなこ)で交互に見返す。と、明かりはナーギニーから尖塔(ミナレット)上部のバルコニーに移り、其処に立ったイシャーナらしき影を灯した。

『良かった。君の声も良く聞こえる。ナーガラージャにちょっとした細工を持たせていてね……少しの時間、大丈夫?』

 ナーギニーは落ち着いたイシャーナの声に、心の安寧を取り戻した。コブラは依然体勢を変えないまま、少女を真っ直ぐ見つめているが、良く見ればそのつぶらな黒い瞳も、リスのそれと変わらぬように感じられた。

「はい……大丈夫です」

 イシャーナもまたナーギニーの穏やかな返答に安堵したようだ。小さく吐息が聞こえた後に少しだけ()が空いて……まず彼は謝罪と哀悼の意を述べた。


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