【砂の城】インド未来幻想
『一つ……君に弁明をしたくて、来てしまった……』

 (なご)やかな空気に包まれていた少女の思考は、絞り出されたように途切れがちな言葉で引き戻された。

「は、はい……」

 聞いていることを知らせる為に、目の前でじっと動かないナーガラージャへ返答をする。ややあってイシャーナがそれに続いた。

『昼食会でシャニ様が仰られた通り、僕は彼の息子だけど……本当の息子ではない。血は繋がっていないんだ』

「え……」

 ナーギニーは戸惑いを示しながら、それでもすぐに理解をした。会食で彼に向けられたシャニの悪意を含んだ質問、あれは血を分けた子息ではなかったからこその、悪戯(イタズラ)(あそ)びであったのだと。

『本当の父親は此処から北へ行ったクシナガルを治めた大藩王(マハーラーナー)だった。でも自分がまだ小さい頃、父は事故で命を落としてしまい、数年前から州を統治していたシャニ……様に、領地を取り上げられてしまったんだ。……母は父が亡くなった痛手から(やまい)を発症し、或る薬がなければ生きられない。その薬草を作る地を、管理しているのがシャニ様でね……母はシャニ様からの求婚を承諾するしか他に道はなかった。母は僕を共に受け入れるという条件で彼の正妻となり、今に到る……だから――』


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