【砂の城】インド未来幻想
『……どうやらこの辺で帰った方が良さそうだ。ナーギニー、話の途中だけど……ごめん。そろそろ失礼するよ』

 少女が困惑しながらあたふたと言い訳を考え巡らしていた最中、やや音量の落とされた残念そうな声が聞こえてきた。共に右手となる宮殿正面から賑やかな幾つかの声音(こわおと)が近付いてくる――夜の庭園を散策していた少女達の楽しそうな会話だった。

「はい、あの、ありがとうございました」

 首を降ろし、去る体勢を整えたナーガラージャに、ナーギニーは深くお辞儀をした。

『こちらこそ楽しかったよ、ありがとう。……明日の夜、また来てもいい?』

「は、はいっ、もちろんです!」

 その問いに、少女の心は軽やかに弾んだ。

『そう言ってくれて……本当に嬉しいよ。どうかゆっくり休んで。おやすみ……「お姫様」』

「あっ……」

 最後の台詞(セリフ)に、胸の内へ心地良く響き渡る出逢いの言葉。「おやすみなさい、イシャーナ様」――彼女がそう呟いた時にはもう、ナーガラージャの姿もイシャーナの遠い影も、まるで夢の如く掻き消えていた――。


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