【砂の城】インド未来幻想
 リスはカシューナッツの存在と共に、少女の気配にも気付いたようだった。警戒しながらそれでも少しずつ距離を縮める。おどおどとしていても、あどけない表情はナッツを食べたくて仕方のないようだ。目標に注がれた視線を時々ナーギニーに向けつつ、立ち止まっては歩みを進め、やっと手の届く距離に辿り着いた途端、全てのナッツを急いで頬袋に詰め込んだ。

 その余りの慌て振りに、さすがのナーギニーも吹き出してしまい、彼女も慌てて口元を塞いだ。気付いたリスは恥ずかしそうに欄干に隠れ、二度程ナーギニーの様子を覗いたのち、やってきた方向に去っていった。きっと自分の巣や隠し場所にナッツを持ち帰るのだろう。また明日も来てくれるだろうか? 昨夜現れたナーガラージャのように……。

 閑散としてしまったバルコニーで身を立ち上げ、目の前の尖塔(ミナレット)を先端まで仰ぎ見た。あの暗がりにイシャーナが佇み、こちらを見下ろしてくれたことなどまるで夢のようだ。けれど確かに彼の柔らかい声は自分に語りかけた。そうして約束した今宵(こよい)の秘め事。それこそが今日一日を乗り切る為の活力と成り得た。


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