【砂の城】インド未来幻想
 ああやっと……待ち望んだ時が来た……!

 思わずそう叫びたい気持ちで、寝台の枕を抱き締める。けれど外の景色はまだ明るい。イシャーナとの時間はあっと言う間に過ぎ去ったのに、待ち侘びる間はどうしてこうも長く感じられるのだろう。日暮れてからどれくらい経てばナーガラージャは来てくれるだろうか? いつの間にかナーギニーは窓辺に立って、水色と(だいだい)を混ぜ始めた空を見つめていた。募る想いが見たこともない雪のように、心に深々(しんしん)と降り積もってしまう。この雪が溢れるほど心を満たした時、自分はどうなってしまうのだろう。このまま降り続けたら……張り裂けた心の雪は、誰が()き止めてくれるのだろう。

 雪崩(なだ)れてしまいそうな弱々しい気持ちをどうにか抑え込み、思い立って先に湯浴みを済ませたナーギニーは、ひたすら『その時』を待ち続けた。やがてナーガラージャよりも早く夕食のワゴンがやってきて、昼食とは違い味も分からぬまま、いささか急いで半分を口に運ぶ。毎夜の全てを終えた少女は、暗く沈んだバルコニーの手摺に両手を置き、闇よりも黒い尖塔(ミナレット)をじっと見上げた。

 まもなくしてその上部から生まれた光が、点々と生まれては消え、消えてはまた生まれる。同時に手の甲にそろりと滑らかな鱗の通り過ぎる感触を得……

 ナーギニーの心に灯った温かな()は、たちまち積もった雪を溶かし尽くしていた――。


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