【砂の城】インド未来幻想
 この一族はシャニを頂きとし、正妃一名、重臣・妾妃(しょうひ)数百名にて構成されている。シャニ自身はヒンドゥのヴァイシャ出身の為、男達はクルタという長尺の上着に、ピジャマと呼ばれる細身のパンツ、頭上には時にターバンを巻くが、一族を特徴づける物はその全身をくるむ白いマントであった。彼らだけが纏うことの許されたしなやかな外套(がいとう)には、シャニを象徴とする土星のマークが縫い込まれている。

 が、妾妃以外の女達の服装は(いちじる)しくムスリムの様式に(かたよ)っていた。肉親や夫以外の前ではブルカと呼ばれる面紗(ヴェール)黒いマント(チャドル)を羽織り、顔や身体を覆い尽くす「パルダー」という習慣を崩すことはなかった。(註1)

 これにはシャニの王として君臨した経緯に理由がある。彼の若かりし頃、ムスリムには禁忌とされる占いの術師によって、シャニはかつてのラジャスタン、その地域に繁栄をもたらした大藩王(マハーラーナー)の財宝に導かれた。そうして砂の城を建造するまでにのし上がった恩恵が、ヒンドゥでありながらムスリム文化を擁護するという、宗教の壁をも越えた思念に表わされていた。


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