【砂の城】インド未来幻想
 しかしそれと同時に、部屋の外から二度ノックの音が響いた。聞こえてきたのはいつも通り回廊へ続く扉だが、もう夕食を終えている時間に訪問があったことは一度もない。日中のブラウスが仕上がって、早々に届けてくれたのだろうか? ナーギニーは慌てて応答し立ち上がった。現れたのは侍女ではあったが、たった一人きりな上に、閉じた扉の前で深くお辞儀をしたまま、姿勢を戻す様子はなかった。

「お食事を片付けに参りました」

 頭を下げた状態で侍女は一言そう告げる。今までにない事態に少女は慌ててワゴンに目をやった。シュリーの為にと食事が半分残してあるのだ。今持ち去られてはシュリーに会えた時・彼女が空腹を抱えていた時、一体どうしたら良いのか……困ったナーギニーはとにかく持ち帰られないように、刹那に拒む台詞(セリフ)を発していた。

「あのっ……下げるのは明日にしていただけませんか? その……あの……もしかしたら夜中にお腹が空くかもしれません……」

 意地汚く思われはしなかっただろうか? 咄嗟に浮かんだ言い訳に、語尾は小さく(かす)れ、いつの間にか鼻の頭が赤らんでしまった。


< 191 / 270 >

この作品をシェア

pagetop