【砂の城】インド未来幻想
 数分してようやく落ち着きを取り戻した少女を、シュリーは部屋の中心のテーブルに(いざな)い、ちょうど良く用意された二脚の椅子に二人腰を下ろした。とめどない涙をハンカチーフで(ぬぐ)ってくれたシュリーは、質素な侍女の身なりをしていても、今まで通り清廉(せいれん)として美しかった。

「折角の美人が台無しよ、ナーギニー」

 そう言って笑ったシュリーの目尻にも、涙らしき痕が煌いていた。震える唇の端に力を込め、ナーギニーも何とか微笑んでみせる。沢山訊きたいこと・話したいことがあっても、この全身を駆け巡る悦びは、声を出せるほど心を平らかにはしてくれなかった。

「幽霊なんかじゃないから安心してちょうだいね。あの時わたしは鏡を使って彼らの目を光で突いたの。お陰で銃弾は外れて命拾いしたわ。それからラクダに乗ってあなた達を追っていたら、途中で逃がした侍従の馬を見つけたのよ! ああ……残念ながら振り落とされてしまったのか、侍従は見当たらなかったけれど……ともかくそれで馬に乗り換えて、アラハバード――あなたの連れていかれた街ね――其処で砂の城の従者を探し回ったという訳」

 問わずともシュリーは一から説明をしてくれた。理解しては相槌を打つナーギニーの様子を見て、満足そうに一度話を区切ったシュリーは、再び少女の瞳に溜まった涙を、(いつく)しむように優しく布に含んだ。


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