【砂の城】インド未来幻想
「あっ……!」

 それだけでも驚きであったのに、続けてその手に落ちてきたのはカシューナッツの欠片(カケラ)だった。ハッと上げた少女の瞳が、樹洞の縁にしがみついたシマリスとかち合う。此処は自分がナッツを渡したリスの食糧庫なのだと気付かされた。

 広げたそのままに、静かにリスのすぐ下まで掌を寄せた。やがて固まっていたリスは、目の前のナッツを受け取り樹洞へ消えた。

「綺麗……」

 滑らかな石の丸みを指の腹でなぞり、ナーギニーは降り注ぐ木洩れ日に照らした。途端碧を集めた表面に小さな星が瞬く――ブルー・スター・サファイア。インドで最も気高き珠玉――。

 惹きつけられるようにしばらく見入ってしまったが、ふと思い出したように封書に目をやり、木陰にしゃがみ込む。震える指先で丁寧に開いたその中には、同じ色の便箋が小さく畳まれていた。

 美しいデーヴァナーガリー文字で、昨夜突然去ってしまったナーガラージャについての詫びと、指輪を見つけられたなら、是非受け取ってほしいとの要望、そして今夜も出来れば話がしたい、という切なる希望が(つづ)られていた。(註1)


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