【砂の城】インド未来幻想
 ――西暦……それすらも既に忘れ去られた遠い未来。

 異常気象の影響により、数百年前から徐々に枯渇した地球の表面は、大地を潤す雨も、遥かに広がる海さえも殆ど失われていた。荒野を滑る物はただ砂のみ。空はどす赤黒く淀み、白く紅く輝く太陽(スーリヤ)(ソーマ)だけが、狂いようのない輪廻(サンサーラ)を繰り返している。

 三十年前に始められた第二次地球計画によって、多くの者が母星を捨て去ることになった。人口は急激に減少し、遺された廃墟には貧しき者・悪しき者が蔓延(はびこ)った。しかしそれも風と時が(ことごと)く崩し、新たな砂の山と化した。残った者は物好きな大富豪……そしてヒンドゥである。

 ヒンドゥは生まれた地を捨てない。彼等は神を信じ、輪廻において輝かしき来世に生まれ変わることを信じる。例えその結果良い身分を得られずとも、再び転生を繰り返し、豊かな日々が訪れる命を待ち焦がれるのだ。もしくは二度と生れ出でなき時を待つか。そのため今は失きガンガーの砂と死灰に満ちた()れた流れに、人々は幾度となく身を浸した。


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